ジェンダー・ギャップ革命
第8章 報復の権利
見覚えがある。
今頃、呑気に事務の仕事に勤しんでいるのだろう友人によく似た男は、やはりありあの交際相手だ。
「許してやってくれ!!ありあちゃんは悪くない!誰かが悪いんだとしたら、俺です……男である俺を捕まえて下さい!!」
往国英治の細腕は、今に柵を突き破ってもおかしくない勢いだ。ありあの放免を訴える声が、朝の清々しい空気も湿らす。
「ありあちゃんは、相手が女性だろうと男だろうと、分け隔てなく接してきただけです!人間として、個人として、俺はそんなありあちゃんを好きになった、言い寄ったのは俺です!!……ありあちゃん、ごめん……仕事が忙しくて連絡してくれなかったんだと、思い込んで……力に、なれなくて……」
「…………」
「英、じ、……さ、ん……」
えみるは、ありあと英治を交互に見ていた。
写真や動画を撮っているのは、ありあのかつての客達だけではない。記念とばかりにスマートフォンを構えているような見物客らも数多いて、彼女らは、英治にまでレンズを向けている。
愛されなかったえみるが生きて、愛されているありあの唇が、色を失くしかけている。
「ごめんね、ありあちゃん。きっと追いかける。すぐ行くから、待ってて」
「……ッ、……」
ありあが首を横に振って、えみるん、と唇を動かした。