ジェンダー・ギャップ革命
第8章 報復の権利
事情を知らない家政婦にもえれんにも、非はない。
愛津とえみるはそうだと無言で頷き合って、えれんの誘いを辞退しなかったことを悔いていた。
緑茶の冷めない内に、えれんと織葉が帰宅した。
彼女達と家族のように向かい合ってお茶を飲んで、茶菓子を口に運んだ愛津は、こちらの気分も何吹く風と美味を主張するそれを味わって、時折、えれんの話に相槌を打つ仕草で織葉を盗み見た。
普段より手順を重ねた華やかな化粧に、明るいレジメンタル柄のワンピース。袖に覗くブレスレットと、青みを帯びた艶やかな巻き毛に隠れた耳元に光るイヤリングには、彼女の瞳のように澄んだトパーズ。久々に会うと涙が出そうになるほど美しいのは、愛津が、彼女と事務所で顔を会わせる機会も失くしたからか。
織葉に会いたくなかった。
女の雇用率が芳しい今こそ、えれんの雇用下から退くことを考えていくべきかも知れない。
とは言え自宅謹慎の解けていない愛津の行動範囲は限られていて、結局、今日も、別れたばかりの元恋人に切ない胸中を持て余している。
紅白合戦を観ながらの年越し蕎麦は、家政婦達も同じ食卓に着いて賞味した。
夜、えみるがえれんに話があると言って、呼び出した。
えみると同じ客室が準備されていた愛津は、先に就寝へ向かう。
今日ほど気を張ったのは、久し振りだ。釈放以来、部屋にこもって、一日中動画やネットを見て過ごしていた愛津は、一度だけ織葉が訪ねてきたのを除いて、世間との関わりを絶っていた。
「愛津ちゃん」
「…………」
ノブを握った愛津の右手が、第三者に捕らわれた。
今の声を、他の誰かと聞き違えるはずはない。身体の一部に触れるだけで、否、触れなくても近付くだけで愛津の生気を潤わせる存在感は、織葉にしかない。