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ジェンダー・ギャップ革命

第8章 報復の権利








 えみるは、えれんに脱会を願い出た。

 あの日以来、えみるは日常生活も難儀している。ありあの残した声や匂い、彼女の顔が五感を離れず、罪の意識がえみるを縛りつけていた。

 月村は、えみるの辞表を受理した。有休明け、えみるは引き継ぎを済ませて、収容所を去る。


 大学にいた時分、えみるがアルバイトしていた店の近くは、長沼そうまの陣地だった。旧時代的で、当時の少子化対策にも積極的だった彼は、中途半端に経験を積んだ中年らしく頑固で、視野の狭さの表れ出た演説は、気分を害するだけならまだしも、しょっちゅうえみるに悪感までもたらした。

 たかが演説かも知れない。

 そのたかが演説を強制的に耳に打ち込まれる苦痛は、えみるが長沼に恨みを持つには十分だった。彼のジェンダーバイアスは、まだ感じやすい年頃だったえみるに有害だった。

 だから「清愛の輪」に入った。改革が男達の権利を奪って苦しめるほど、胸のすく思いがした。


 だが、えみるがえれんを支持した動機は、所詮、それだけだ。

 えみるが消したかったのは長沼のような男だけで、恨んでもいない人間ではない。


「私が、殺した。……人殺しです。法が変われば、いいえ、変わらなくたって、私はもう……もうっ……!!」


 人より少しきららかで、ありふれた人生を辿っていく確信があった。看守という職に就いて、内情を外で話しにくいのを除いては、職権で肉慾を満たしたり、えれんの関係者という肩書きが動画配信者として強みになったり、利益になったところもあった。


 どこでかけ違えたのだろう。

 一度犯罪者になってしまえば、元に戻れない。えみるはありあの命を奪った。

 えれんの失脚する将来が、今は想像つかない。往国茂樹の例もある。権力者に限らない。信じた未来の急変は、えみる自身が経験している。もう月並みの死も望めない。

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