ジェンダー・ギャップ革命
第8章 報復の権利
えれんに言わせれば、「清愛の輪」に共感出来る女達には報復の権利があるという。
政界も財界も男達がしゃしゃり出ていた社会は、いつもの時代も凄惨だった。
生活格差、治安の悪化、財政難、戦争──…。そこまでの規模で考えなくても、男が家庭の中心にいれば女は大抵耐えていて、困窮すれば、女は色を提供する場合が多かった。
えれん自身、一方的なリストラののち、どこの企業も彼女を見捨てた。当時の人事がまじないのごとく彼女に放った言葉の通り、彼女は利害一致の関係にあった男達から、一人を伴侶にした過去がある。彼女の親友が一人、親族らの結婚ハラスメントで命を絶ったのは、その五年後だ。
確かに、えみるも大学生時分、ともすれば死にたくなっていた。
長沼そうまの演説には、一定数の聴衆もいた。彼らのような大人達の動かしている世界に、何を期待出来ただろう。えみるが未来に希望を見たのは、織葉の演説、つまりえれんの理想に出逢ったからだ。
「絶対守る。えみるちゃんが罪と言うなら、私は一緒にそれを背負う。そのつもりでやってきた」
「神倉さん、……」
「これは、私の望んだことだもの。えみるちゃん達は私に感謝されてれば良い。でも、ありあちゃんのことで辛いのは分かる。私も親友とはお別れしてる。だから、別の役職に空きが出るまで、お仕事だけ休むということは出来ない?」
「清愛の輪」まで離れれば、今度こそえみるは生き方を失くす。
ありあは、あの苦しみの中でえみるの幸福を願った。本当に織葉の想いを愛津からえみるに傾けられようとは彼女も思っていなかったろうが、それだけえみるに前を向かせたかったのだと思う。
えみるは、えれんを拒む気になれなくなった。
第8章 報復の権利──完──