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ジェンダー・ギャップ革命

第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた


* * * * * *

 世界か、自分自身か。


 やりきれないえれんの恨みがどちらに向かっているものか、分からなかった。


 立ち回りの上手い女は、掃いて捨てるほどいる。一目置かれる女には、一目置かれる理由もある。

 つまり社会がえれんを切り捨てたのは、単に彼らが無能な個人を見切っただけだと考えられる節もある。

 亡き親友のように、仕事を趣味同然に感じたかった。泰子のように、突出した学力を積んでいれば自力で公務員にもなれただろうし、真智のように手に職が付いていれば、自信に繋がってもいただろう。

 天は、男好きのする容姿だけをえれんに授けた。学生時分、女には興味も向けられなかった代わりに、男からの告白は平均を上回っていたと思う。例のギャラ飲みに顔を出すようになってからは、自身のコンプレックスが自意識過剰でなかったことを確信した。

 金をもらって生きるか、男達を拒んで路頭に迷うか。

 後者を選ぶ気位もない自分自身に吐き気がしながら、えれんは男達の褒め言葉にはにかんで、彼らの求める感じの女を気取って、好意を売った。


 …──えれんちゃんは、可愛くて良い子だ。今時の若い子達は、しゃんとした美人が格好良いとか勘違いしているようだけど、あれで男は騙せない。着飾って厚い化粧をしたって、俺達はすぐ見抜けるんだ。

 えれんちゃんは、愛想が良くて女性らしくて、安心して可愛がれる。幼く見えると言っているんじゃないよ。ただ、賢さを鼻にかけたような女性って、いるだろう?ああいうのは可愛げがない。


 えれんの時間、そして身体を一時的に所有した男達に、悪意はなかった。悪意とは真逆の感情で、若い女に分不相応なものを与えて、厚い皮膚の覆った唇を押しつけて、愛想笑いも喜ぶ振りも本気と取って、えれんの身体を撫で回した。

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