ジェンダー・ギャップ革命
第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた
「それで、話があるんじゃない?」
牡蠣の殻を剥きながら、えれんは本題を促した。
「まず、織葉ちゃんのこと。えれん、あまり押しつけがましくすると、愛も冷めるわよ」
「そんなもの必要ないもの。あの子は私を信奉している。愛してくれているより、確実性が高いと思わない?」
「それと、収容所。説教やカウンセリングはともかく、体罰や……処刑は廃止しなさい」
「私は死にたくなるほどの思いをしたのに?馬鹿なヘテロ信仰のせいで、親友だって亡くしたわ」
年々、右肩上がりの収容人数、そして処刑者は、年が明けて更に増した。そして収容所から研究施設へ移送された男達は、赤子を産み続ける父体になる。結果、処刑による死亡者が増えても、それ以上に新たな生命が誕生しているため、反対意見は減少していた。
泰子は、それを良しとしない。
人工的に生まれた赤子達に、健康面も身体機能も従来の赤子との差異が見付かっていないところで、彼女の基準の倫理を根拠とした批判は、今に始まったことではない。
「えれんは、本当に役員達を守れるつもり?法が変われば……ううん、貴女が失脚しなくても、公安の人事が変わっても、収容所や研究施設の職員達は、犯罪者になる可能性がある。心の傷も、えみるちゃんに限ったことじゃないはずよ」
指摘を受けるまでもなく、分かっている。だが泰子の想像力は、後戻りという選択肢が最悪の事態を招くことにまで、及ばないのだ。
えれんの後方の襖が開いた。
次の料理は、料亭の店主自ら運んできてくれたらしい。