ジェンダー・ギャップ革命
第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた
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かつて盤石の地位にいた往国茂樹は、昨年の選挙戦以来、凋落の一途を辿っていた。
失くしたのは、名望にとどまらず、私産もだ。
娘が屋敷を飛び出してから、配偶者との折り合いも思わしくなかったらしい。息子とは共通の話題もなかった。よそに愛人を見付けた彼は、彼女に投資することで、心の拠りどころを確保したという。
そしていよいよ役職を失くした彼は、実家に戻った配偶者から、不義に対する破格の慰謝料を要求された。もっとも、その金額は相場だ。神倉えれんの改革があって、男女の離縁に関する定めも、昔に比べて男の負担が増したのだ。
撮影に使った機材を仕舞いながら、川名は、今しがたの対談相手に呼びかけた。
今日は、ひどく疲れた。大物を迎えた撮影だったからだ。
その大物は、川名の気負いもどこ吹く風、横柄なまでに悠々とした顔を向けてきた。
「お疲れ様、川名くん。どうした?まだ質問か?」
「編集の方で、ご相談が。改まった演出にしますか?それとも、往国茂樹先生のプライベートのお顔を見せるという意味で、砕けた感じにしますか?」
「やめてくれ、先生なんぞ。妻にも子供達にも見限られた老いぼれだ」
「往国先生、そんなことを仰せにならないで下さい。貴方の未来は、全くまだ決まっていません」
長沼が、切迫した言葉つきで、川名と往国に割り込んできた。
彼も昔は、往国の党員だった。独立したあとも往国とは懇意で、今日の撮影も彼による提案だった。