ジェンダー・ギャップ革命
第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた
「往国先生は、どうでした?」
ロマンスグレーのゲストを乗せたタクシーが遠ざかっていくと、長沼が話を振ってきた。
川名は躊躇う。長沼は、かの男を盲信している。正直に言って構わないかと前置きして、対談中、頭に箇条書きすることでしか処理出来なかった歯痒いような感情に、なるべく礼を欠かない言葉を着せていく。
ひと通り川名が話し終えると、長沼は、全くその通りだと頷いた。
「そうなんだ、川名くん。先生は時代に取り残されていらっしゃる。凝り固まった価値観でしか、ものを見ようとなさらない。私はそれが残念だ」
「でも、尊敬されているんですよね?」
「ああ、そうだ。神倉えれんの思想は良い。だが過激だ、政策が新しすぎる。私は往国先生の安定されたところが好きなんだ。安定は、国を維持する。時に進化を妨げるが、往国先生の慎重さは、一度に何かを崩壊させる危険もない。新しいものを取り入れてばかりいると、今に良くないことが起きる」
「それでは神倉さんのやり方次第では、彼女に付くような仰りようではないですか」
「しかし彼女はそうしない。それに男は嫌われている。私が君に協力を頼んで、往国先生や私の思想を若い世代に認知させようとしているのも、彼女の独裁に危機感を覚えたからだ」
「…………」