ジェンダー・ギャップ革命
第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた
川名は納得がいった。
神倉えれんの独裁は、彼女が民主主義者であるところにある。
往国茂樹のような為政者は、国民からすれば、ろくに仕事もしないで血税を啜る腰抜けだ。過激であれ斬新であれ、神倉ほど行動力を備える方が、特に若い世代は理解しやすく、市民達は彼女を選ぶ。
実際、彼女は意図せず、男達まで救っている。
かつて、男には男にのしかかる重圧があった。それでなくても、例えば川名の党員である佐古道隆のように性的少数者と呼ばれていた人間は、未だ彼女を恩人でも見る目で崇めている。価値観の逆転が世間に痛手を負わせていようと、それは当然の報いだと、いつか佐古は話していた。川名の友人達にも、神倉を支持している男達は数多いる。
だが、長沼はこうも続けた。自分は往国に恩義がある。彼が苦窮している今こそ、その恩義を返す時だ。…………
「長沼さん、川名さん!」
「善生団」のメンバーが一人、走り込んできた。当初は不謹慎だの悪趣味だの、批判もそれなりにあった川名の動画チャンネルは、彼を始めとする同じ嗜好を持つ仲間がいて、今日まで成り立ってきた。
「まずい話を聞いてしまいました。長沼さん、川名さん、ウチのチャンネルで扱うのでしたら、我々が消される覚悟も必要ですよ」
「何だ、面白い土産がありそうじゃないか」
川名は、友人に先を促した。
彼は、長沼の指示で、神倉の身辺を嗅ぎ回っていた。「清愛の輪」の役員達は、行政知識に弱い分、警戒心は強かった。尾行や聴き取りが順調だったのは初めだけで、神倉自身も、ここ数日は必要以上に出歩いていないと聞く。だが、今しがた戻ってきた彼は、彼女の行きつけの店を突き止めてきた。妻子を連れて、その料亭を訪ねたところ、彼女らの入った個室に張りつけたという。