ジェンダー・ギャップ革命
第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた
「神倉さん、本当に親身な人ですよね」
えみるの呟きが、にわかに聞こえた。
「あんなに気を遣わせて……。私も元気を出さないと。神倉さんの厚意を無駄にしないで、お仕事、頑張らないとって、思うんです。でも、良いんですかね。私達の幸せって、誰かの悲しみや我慢の上に成り立っているのかも、って、考えることがあります」
えみるの恐れ慄きは、ごく自然なものかも知れない。ある時期から社会的性差を嫌悪するようになった彼女は、その元凶をこしらえた、長沼そうまをただ憎んでいる。それだけだ。何かを得るため、代わりに何かを切り捨てなければならないなど、彼女の念頭にはないだろう。
「その誰かって、誰?」
「えっと、それは、……」
思わず口を衝いた本心を、織葉は撤回したくなった。
えみるの感情に、自分が共感出来るはずない。
えれんと同じ夢を追ってきた。かつて自分が何に焦がれたか、何を願っていたか、ありのままの欲望は、きっとどこかに置き去りにして。
男の言いなりになるような女を増やさない。女達を困窮させない。
他はどうでも構わないなど、えみるには理解し難いはずだ。