テキストサイズ

ジェンダー・ギャップ革命

第2章 唾を吐く貧民



「もちろん独立したくなった時は、引き止めない。けれど今回、一緒に戦ってくれて楽しかった。ここの役員は、私の考えに賛同してくれる愛津ちゃんみたいな人に頼むつもりでいた。何より物覚えも良くて、素直。人材として期待出来るわ」


 買い被りすぎではないかと思った。と同時に、愛津はえれんの過大評価で、肩に力が入ったのを自覚した。自分自身に驚いた。

 自分だけを信じられた。実権者達や富裕層の人間は、本人らの努力でその地位にいるとは限らない。愛津の方が、ずっと気位も高く心がけもきちんとしている。洋服は一シーズンごとに三、四着を着回していてよれよれで、宝石一つ所持していない。それでも、選民意識は空高く聳え立つ竹のように、愛津の中心に凛と通っていた。物怖じなど、自分らしくない。胸を張って頷くだけだ、と頭では想い描くのに、感無量になって礼が真っ先に口を飛び出た。

 愛津が正式に「清愛の輪」に入った翌年、大学を卒業したえみるもえれんに雇用された。往国英治の娘である英真が入会してきたのもその頃で、彼女の恋人の渡島しづやに、東大出身の研究者である久城もななど、構成員の数も増えた。

 「清愛の輪」は、世間に浸透していった。えれんの従来の人脈もあって、その勢いは満を持したと言わんばかりに増し続けた。

 えれんの昔からの支持者達は、反モラルを取り締まるための収容施設の建設に際して、積極的に資金を集めた。公安委員長の磯部早希(いそべさき)も、彼女とは懇意の仲だ。収容した咎人達の処置に関して、警察に一切の干渉もさせないよう首尾してくれたお陰で、久城を責任者とした研究も開始されて、十年近く温めてきた「清愛の輪」の理想は、ついに大きく飛躍した。

 愛津達は、地道に事務や雑用をこなす日々が続いた。織葉は引き続きえれんの代弁者としてメディアや演説台に立ち、本部では愛津達に近い位置で、義母の補佐を務めていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ