ジェンダー・ギャップ革命
第2章 唾を吐く貧民
かくて比較的新しく「清愛の輪」に迎え入れられた愛津は、えれんの理念が社会を変えた疾風怒涛の短期間に立ち会って、今や彼女と当たり前に関わっている。
午前はさんざん公害音が業務を妨げてきたこの日も、愛津は彼女から夕餉の誘いを受けた。
まだ明るい夜六時過ぎ、事務所のビルからタクシー二台で移動したのは、立役者であるえれんを始め、愛津と織葉、それにえみるやありあといった収容所勤務の顔触れだ。
最近は毎日のように顔を合わせることもなくなったえみると再会を喜び合ったり、久城の博識に感心したりしている内に、えれん達を乗せた先頭の車体が森の舗装路を入っていき、愛津達もそれに続いた。随分な距離を移動して、夜闇が濃度を深めたが、洒落た看板が視界の端に触れて、じきにえれんの昔の友人が営んでいるという店に着いた。
うすら闇の降りた庭園は、昼間なら見事な眺めだっただろう。純和風の屋敷に入っていった愛津達は、小綺麗な個室に通された。彩度を抑えた大輪の花の掛け軸があって、漆塗りの座卓が中央に置かれた客間は、い草の香りが心地好くたなびく。
えれんが手配していたらしく、席には先付けからデザートまでのお品書きが置かれてあった。料理が運ばれるまで雑談しながら過ごしていると、襖が開いて、煌びやかながら上品な着物姿の婦人が出てきた。井原真智と名乗る彼女は、格式ばった挨拶もそこそこに、えれんに砕けた口調を向けた。