ジェンダー・ギャップ革命
第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた
「切ったらまずいよ、えみるん……」
「聞くに耐えられないよ。まともに対応したって、暴言、誹謗、中傷、暴言」
「分かるけど、もらっているマニュアル通りにしないと。見せかけだけでも誠意を示さないとって、神倉さんも言ってたじゃない」
愛津は、えれんに預かっている小冊子をめくった。苦情や問合せの例に応じて受け答えの定型文が羅列されたそこに、えみるの求める否定や反駁は見当たらない。
えれんは、記者の対応に出かけている。彼女の指示で、織葉も久城の事務作業を手伝いに出ている今、愛津達が事態を悪化させるわけにもいかない。
「織葉さん、大丈夫かな……」
「大丈夫じゃないから、避難させられてるんでしょ」
「まぁ、研究所は安全だしね。あすこは特殊っていうか、近づきにくくて、記者も押しかけるまでのハードル高そう……」
英真としづやが肩を竦め合っていた。
愛津は、その傍らにいたえみる顔の蒼白さに、ぎょっとした。氷水でも浴びせられたのかと思うほど、彼女は全身も震えている。
「えみるん?」
「顔色やばいよ、熱ある?」
「だ、だいじょ──…」
額に迫った英真の手を軽く払って、えみるが自身の肩を抱いた。ごめん、大丈夫、ごめん、と譫言のように繰り返す彼女は、起きたまま悪夢でも見ているようだ。