ジェンダー・ギャップ革命
第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた
記者会見を、織葉はどんな思いで見ていたか。
追い討ちをかけるようにして、愛津達に気付いた数組が、通りすがりに織葉をちらと瞥見して、下品な言葉をささめき合った。
「織葉さん、……」
「可愛い顔が、台なしになるよ」
愛津の伸ばした織葉の片手がすり抜けて、やおら頬に触れてきた。
「記者の人達、あれで怒るのが押しつけがましいよ。価値観なんか違って当然。お母様は、私に愛情を持っている。女性として格好良い。母性がなくちゃいけないなんて、それこそ女性蔑視でしょ」
「織葉さんは、訴えよう、と、考えたりしない?」
「十代で関係持ったのはまずかったけど、時効だし。そこ掘り返すなら、私も大越湊斗に訴訟される」
「…………」
織葉のこうした思考自体、えれんの心理操作が紐づいた結果だろうか。だがその思考を一掃すれば、彼女の中に、思いは他に残らないかも知れない。
彼女の指が、愛津の頬からうなじへ回った。背中を伝う彼女の手が腰へ移って、愛津は抱き寄せられるようにして、彼女の身体に密着した。
「愛津ちゃんの方が、愛してる。連れて逃げて良い?」
「……また、調子乗るようなこと」
「私はお母様を拒むべきだった。拒んでいれば、あんなことにならなかっただろうね」
「それは、違います。……神倉さんは、織葉さんがいたから、生きたって……」
何が正しいのだろう。何が最善だったのか。
愛津と織葉は、対象的な境遇にいた。だのに両者、永遠で完璧な幸福の在処を知らない。