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ジェンダー・ギャップ革命

第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた






 翌週、えれんは辞職勧告を受けた。

 本人曰く、記者会見での逃げも隠れも誤魔化しもしなかった姿勢は、裏目に出た。連日、彼女は頭に血の上った市民達に加えて、愛津達にも頭を下げている。


「私……捕まる……ううん、早く捕まって、死刑になって、ありあちゃんがどうしているか、見に行くんだ……」


 えれんが憔悴していくのに反して、えみるの顔は、晴れ晴れしていることが増えた。かと思えば急に震えたり、笑い出したりする。


 …──世界は、壊れるためにあるんだよ。人間も長く生きれば、失うものが増えるだけ。


 えみるは遺書を書いた。愛津と違って、英真やしづやを通した情報網に乏しい織葉達は、彼女の諦念など知る由もなく、起死回生を模索している。

 しづやは、愛津達がよりを戻すことを提案した。そうすれば、少なくともえれんと織葉の関係は、誤報だったと否定出来る。記者会見では、追いつめられたえれんがつい認めてしまっただけだということにした方が、まだマシだと。

 愛津は、しづやに頷かなかった。こんなきっかけで織葉と元の関係に戻れても、心から喜べない。きっとえれんは不安定になって、昨年末の一件以来えみるを気にしている織葉自身、快諾しないだろう。


 えれんや役員達の帰ったあとは、水を打ったように静かだ。

 愛津は織葉と、各々の定位置にいた。電話の鳴らない夜の事務所が、今や懐かしい。


「隠しててごめん、愛津ちゃん」

「神倉さんの、こと?」

「ごめんね」


 愛津は、首を横に振る。

 どれだけ美しい月も、目を澄ませばクレーターが見られる。裏側はどうなっているかも分からない。織葉は、愛津の醜い部分も否定しなかった。愛津も、彼女の痛みや枷もひっくるめて、彼女を愛している。


「私は、織葉さんが好き。知らなかったことだって、あとで知っていければ十分。一つも否定しない自信はあるよ」

「愛津ちゃん……」


 必ず状況を覆えす、と織葉は続けた。

 えれんより強い意思を感じる眼差し、彼女より自信に満ちた織葉のまとう雰囲気に、愛津はただときめいて、高揚した。






第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた──完──

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