ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
三月一週目の月曜日の朝、愛津の隣のデスクが空いていた。えみるの無断欠勤を、えれんは由々しき事態と捉えた。
織葉はえれんに連れられて、えみるの自宅へ向かった。道中、彼女からの返信を待つ内に、タクシーは指定の住所に停まった。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんね。有給をいただいてのんびり過ごしているものとばかり……」
織葉はえれんと、えみるの母親と名乗る女の案内に従って、廊下を進む。
平日の朝に娘が起き出してこなくて疑問をいだかなかったのか、不審な点は残るものの、彼女ら母娘の関係は、特に問題ないようだ。彼女がえれんによそよそしいのは、連日のニュースのせいだろう。それでも、娘の上司に向けるものとして差し障りない言葉を並べる彼女は、朗らかだ。
「えみるちゃん、おうちで悩んでいらっしゃる様子はありませんでしたか?」
「娘は、仕事の話をしません。動画はたまに見せてくれるんですけれど、部署が変わったことくらいしか……」
「その動画も、最近は更新されていないんです」
「そう、ですか。……ちゃんと学校を出て、公務員になってくれて、えみるは心配ないと思っていました。派手な見た目でも、よく出来た娘です。あ、失礼しました、これじゃ親バカですね。とにかくあとは元気に過ごしてさえいてくれれば、あの子から頼ってこない限り、余計な干渉はしないと決めていました。あの子が仕事の話をしてくれなくても、私は娘が誇りで、信じていますから」
織葉は、自分達がえみるを訪ねる必要はなかったように思えてきた。
えみるには、親身な母親がいる。若干、放任しているところはあるにしても、この僅かな間だけでそれは分かった。
ただし、幾分肩の力の抜けた母親は、つい話しすぎてしまうことになる。