ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
「あとは、ゆくゆく普通に結婚して、孫の顔を見せてくれれば……なんて。どうにも言えませんね。貰ってくれる人が現れるかも分からないのに」
そこで彼女は足を止めた。
織葉は、えれんをちらと見た。案の定、横顔から、彼女が気分を損ねたのが分かった。
来客の些細な変化に気付くことなく、女は娘の安否を確かめる前に、立ち去った。
「えみるちゃん」
ノックに応じるようにして、落ち着きのない足音が聞こえた。その音はすぐに織葉達に近づいてきて、扉が開いた。
えみるの疲弊しきった顔が覗いた。彼女は訪問者を見るや、ばつが悪そうに目を泳がせた。
「え、織葉さん?……神倉さん、も?ごめんなさい、今、LINE送ったんですけど……」
「今っ?」
えれんがスマートフォンを開く。すると、えみるからの音信があった。織葉達がタクシーを降りてから、ここに至るまでの間だ。
えみる本人による説明と、トークルームに入っていた文面は、合致していた。
早い話が、彼女は昨夜、多量の睡眠薬を飲んだ。ただしすぐに我に返って吐いた彼女は、大事に至らなかったにしても、意識を失くして、泥のような眠りに落ちた。
「何やってるんでしょうね……。寝坊です、本当、ごめんなさい」
「えみるちゃん、……」
無事で良かった、本当に良かった。
涙ながらに、えれんがえみるに腕を伸ばした。彼女の顔は、まるで生死の境目から戻ってきた身内を迎えた人間のそれだ。
彼女の腕を、えみるが鋭い目つきで拒んだ。