ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
「百目鬼さんと言い、気の短い子が多いのかしら。今は入籍前の審査制度を取り入れて、給付金目当てに婚姻しにくくなっているけど、あの制度そのものの廃止も視野に入れるべきね」
「それは、早いと思います。本物の異性愛者の人達が困りますし、その人達のお子さんが、最低限、学校にも行けて、家庭環境に左右されないで将来を選べる条件が満たされていなければ、可哀相です」
「そこよね、子供に罪はない」
「次世代の若い人達には、しっかり勉強してもらわないと。子育て給付金は、私達にも返ってくると思います。神倉さんや私だって、次の子達の繋いでいく社会で、老後を送らなければいけないんですもん」
「同感。子供達が荒れてしまったら、社会にも影響する。研究所から里子に出した子達の親御さんにも、支援金は行くわけだし……」
会議の時と同様の顔で頷くえれんに、愛津は好意に等しい感動を覚えた。神妙に市民らのことを考える彼女は、より美しい。
今なら納得がいく。えれんの声が愛津を安心させるのも、彼女の容姿が愛津の胸を逸らせるのも、こうした時間が愛おしいのも、彼女に流れる血が織葉と同じだからだ。
愛津は、織葉とえれん、どちらを愛していたのだろう。…………
「どうしたの?」
「あ、はい。……お仕事のこと考えてる神倉さんって、綺麗で、見惚れてしまいまして」
刹那、えれんが瞠目した。凛然とした気配を匂わせながらも柔和な顔が、切なそうにほころんだ。