ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
「ひィっ……」
ナイフが女の喉をつついた。その刃先を襟元に下ろして、えれんが彼女のシャツのボタンを外した。
スーツの上着を残したまま、胸まではだけた女の鎖骨に、えれんがナイフの腹を滑らす。
「か、神倉さん……私は貴女を尊敬しています!貴女が女性優位の社会を築いて下さったから、取り柄のない私でも、こんなに大きな会社に就職出来ました!」
「それで人のプライベートを面白可笑しく報道しているなら、私はろくでもない利己主義者の助けになったということね」
「お望みを!!お申しつけ下さい!!」
隣にいた男が身を乗り出した。縄がなければ、彼は三つ指をついて平伏していただろう。えれん達に関する資料を全て破棄するだの、名誉挽回に尽力するだの、死にもの狂いで申し出ている。
切迫した人質らに反して、えれんは落ち着いていた。
彼女は、何も望んでいない。
愛津は察した。