ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
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ビルの前でタクシーを降りた織葉とえみるに、女達の群れが寄ってきた。中心にいたのは英真としづやだ。彼女達の説明によると、愛津が中へ向かったらしい。
周囲は、人でごった返していた。
関係者らに詰めかけていた数人が、つと、織葉に目を向けた。
「神倉織葉じゃない?」
「本物?!初めて見た……あれで政治家の娘って、あり得ないってー」
「顔に税金かけてるんじゃない?確かに見た目が良いって噂は、あったけど……」
「神倉ならやりそう!実の娘とヤるほど、夜の相手に飢えていたんだから」
「性的錯綜者はどっちだよ」
群れにいた中の数人が、織葉に距離を詰めてきた。
話を聞かせろ、事実は、二十以上歳の離れた女の身体に欲情出来るものなのか、そうした好奇にさんざめく彼らから、時折、スマートフォンのカメラ音が立つ。
「こっちです、織葉さん!」
英真の後方にいた令嬢の一人が、織葉の手を掴んで引いた。
織葉は、彼女に付いてビルの裏口へ避難する。母親がここの重役だという彼女は、屋内に入ると、織葉にえれん達のいる会議室への経路を説明した。
「神倉さんは、きっと何かお考えです。でももし危険を感じられたら、会議室を出て左手に、非常口があります。この場所に繋がっていますから、内鍵をかけて戻ってきて下さい」
「有り難う」
インターネット上では、様々な憶測が飛び交っていた。
エレベーターが目的のフロアへ到るより先に、織葉はスマートフォンを閉じた。もっともらしく書かれている憶測は、どれもしっくりこない。
えれんは、きっと謝罪や名誉の挽回など望んでいない。
崩れた信頼関係は、力ずくで戻らない。個人間でさえ困難なのに、為政者と市民らなら、尚更だ。
えれんの狙いは他にある。