ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
「長沼そうまの陰謀は、社会を混乱に招いた。往国茂樹も彼と共謀した罪で、連行します。四年前の失言の件も、収容所で詳しく聞かせてもらいます」
「そいつや俺は、しがない配信者です!」
「川名有弘は長沼そうまと手を組んで、神倉えれんさんのプライベートを情報機関に提供しました。デマまで流された彼女の評判は下がり、業務に支障をきたされました。これは、迷惑防止条例に抵触します。貴方の件は、場合によって、警察庁に委任します」
月村と彼女の部下達は、それから川名達を荷台に乗せた。
滑走するトラックの中で、血相を変えた往国が、看守達をねめつけた。
「お前達、ただで済むと思うな。神倉が解任決議案を受けてみろ、豚箱へ行くのは貴様らだ!!」
看守達は、まるで食肉業者だ。家畜の悲嘆をものともしないのと同じで、往国の怒声が聞こえてもいない顔をして、雑談したりスマートフォンをいじったりしている。
「神倉さん、テレビ局襲ったんだって」
女の一人が目をまるくした。隣りにいた別の女が、仲間のスマートフォンを覗く。そして彼女は、愉快そうに唇の端を上げた。
「これで世間も分かるかも!あの人達の常識が、一部の人間からすれば、非常識だって」
「同意の近親相姦と、一方的な誹謗中傷。後者の方が終わってるよね」
やはり、えれんは新しすぎた。
こんなことになるのであれば、ずっと上司に怒鳴られながら会社員を続けた方が、ましだった。
川名は、今朝動画の投稿予約をしてきた自身の手を見下ろして、あの時はなかった手錠の重みが暗示している先を想った。