ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
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えれんは、人質の皆殺しを宣言した。
防犯カメラは、通常通り、内部の様子を映しているようだ。今しがたの恫喝も、既にネットニュースに上がっている。
捕らえた十人が血に沈む頃、この事件は肥大して、国民達は神倉えれんを殺人鬼と騒ぎ立てる。今夜にも、彼らは織葉を母親と並べて謗っていたことなど忘れるだろう。
えれんは、そうも付け足した。
十の死人の顔が並ぶ会議室に、織葉が飛び入ってきた。
彼女が、人質達の前に進み出た。
「党首が迷惑をかけて、ごめんなさい。許されることじゃないけれど、彼女の過去は、それだけ触れられるべきじゃなかった。貴方達だけでも、ありのままの事実を伝えて下さい」
「私達は、神倉さんを貶めるような報道に心当たりがありません……」
「まずお母様が上流層の男性達と交流をしていたのは、楽しみのためではありません。最初の職場で強引なリストラに遭って、実家は経済的余裕がなく、生活のあてがありませんでした」
「そっちが事実だったんですか!?」
「私との関係も、事実とは食い違った話が広まっています。配偶者から精神的な暴力を受けていた彼女が壊れないよう、家族として支えていただけです」
「スキンシップの度が超えたということですか?」
「だとすれば何故、先月の記者会見で、そうしたお話を聞けなかったのか……」
「神倉さんも説明を省かれていた部分がありましたし、記者陣も頭に血の上った質問ばかりしていたことを振り返ると……」
人質達は、織葉の要求を承諾した。もとより彼女らの中には、為政者として問題はなかったえれんの私情に土足で踏み込むような騒動には疑問を覚えていた、という者もいた。数人が、自分達だけでも誠心誠意謝罪したいと言い出した。
「そう……やり直して、……謝れば、済むこともあるよね……」
えれんは意気消沈している。生死の境目にいた人質達より、彼女の顔色が最も悪い。
これから自決でもする人間の顔で、えれんがナイフを振り上げた。