ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
「あんた達くらいの歳の頃、私は死にたかったっっ!!」
「キャァアアああっっ……」
「あんた達は、やりたいことをしているから……今だって生きたいでしょ?!!自力で暮らせて、付き合う相手を選べて、毛色の違った人間に、後ろ指をさす立場だから!!!」
ザクッ。
「ぅっ……」
世の中には、自身が叱られていなくても、そうと錯覚する体質がある。えれんの声は、それには該当しない愛津まで、思わず身の縮まる思いに至らしめた。
忘我の悲鳴をかき消したのは、この世のものならざる絶望の音だ。刃物が肉を突き刺せば、こうも過剰に、現実的で不吉な音が立つのか。
「織葉!!」
えれんがナイフを打ち捨てた。金属が床に殴りつけられたより先に、彼女が織葉に駆け寄った。
肩よりやや下から背中にかけて、上着ごと皮膚を裂かれた織葉が、女の一人を庇うようにして覆い被さっていた。
今しがたの瞬間を裏づけるようにして、彼女の上着の薄グレーに、濡れた赤が広がっていく。
「愛津ちゃん、救急車呼んで」
「あ、……は、い!」
正気の戻ったえれんと入れ違いになるようにして、愛津は、彼女の指示に従うだけの思考も動かせなくなった。スマートフォンの画面上に、震える指を迷わせながら、いよいよ涙が溢れ出す。
結局、えれんが愛津のスマートフォンを引ったくって、救助を呼んだ。