ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
えれんの築いたものを、なかったことにはしない。「清愛の輪」の理念は希望で、地域や時代に関わらず、これから先何十年、何百年、女達が守られていかなければいけない。えれんがこうした手段で世間に誤謬を認めさせようとしたのだとすれば、猟奇的犯行ではなく、悲劇に訴えかけた方がより効果的だ。彼女の志に愛も意思も擲ってきた自分は、今更、個人的な幸せに価値を見出せない。
「でも、愛津ちゃんとは、戻りたかった……愛してるよ。ごめん、ね、愛津ちゃん。……もし、目を覚ませたら──…」
それが、愛津が織葉と話した最後だ。
人質だった社員達は、警官達の保護を受けながら、口々に所感を述べ合った。
どんな事情があったにしても神倉えれんは破滅したというのが半数で、一方、もう半数は彼女の擁護だ。精神的苦痛が肉体的苦痛を上回るのはよくあることで、しかも誹謗中傷や名誉毀損は警察に助けを得られるまでの条件も厳しく、限界を超えて当然だというのが、彼女に肯定的な意見の概要だ。また、別の社員には、娘と息子がいるらしい。彼女も、もし娘や息子が世間の好奇の目に晒されれば理性を失くす、と話した。