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ジェンダー・ギャップ革命

第10章 正義という罪悪



「親友の逆恨みを買って、玲亜を失くした寂しさから私は、彼女と同じ異性愛者にろくな人間はいないと思い込むことにした。そのせいでお兄ちゃんには、私がありあちゃんの投獄に一枚噛んでいたんじゃないか、そう疑われて、あっちの人達がもっとダメになったけど……」


 害悪は、男ではなく異性愛者でもない。人間が正義と呼ぶものだ、と英真は続けた。


「異性愛者が弾き出される社会にしちゃった神倉さんが、迫害の標的になったなんてね。でも、血縁者同士で淫らなことをするくらい、場所や時代さえ違っていれば、ふぅん……で済むほどの、つまらない話よ」


 個人の正義や道徳こそ、度が過ぎれば罪悪になる。

 英真は──…いや、えれんも、あの事件でそれを訴えたのだろう。


「さて、仕事しよ。しづや、愛津ちゃん。こんな多忙期に神倉さんは捕まるし、織葉さんは退院したかと思えばえみるんに付き合って辞めちゃうし、この書類も明日役所に持って行かないと、どんな言いがかりをつけられるか分からないわよ」


 英真は、また書類に集中し出した。

 あの事件が人々の注目から外れかけているのと同時に、苦情の電話やデモ運動もなくなった。静かな事務所。こうした日常を懐かしんではいたが、愛津の願っていたのとは違う。

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