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ジェンダー・ギャップ革命

第10章 正義という罪悪




 愛津とえれんを乗せたタクシーが、動き出した。

 運転手に行き先を告げて、愛津は、風で乱れた髪に手櫛を通した。


「神倉さんの出所祝いに、今日はご馳走させていただきます」

「愛津ちゃんこそ、大学の早期卒業祝い、私まだしていないよね?」

「嬉しいです……けど、夏の選挙戦に勝ってから、とびきり豪華にお願いしたいです。今お祝いされちゃったら、気が抜けそうで……」

「さすが愛津ちゃん。可愛い顔で、強気な姿勢ね」



 えれんは政界に戻れない。世間が彼女を許しても、彼女が自身を許せない、と愛津は聞かされてきた。

 それなら愛津が彼女に代わって、女達を救い、守る。愛津の世代でそうした社会は完成出来なかったとしても、彼女の理念は繋いでいく。

 昔、愛津は、政界に入って血税を啜って、高貴な暮らしを手に入れようと目論んだ。間近でえれん達を見てきて、かつての妄想は現実において不可能なのだと思い知った。

 市民らの未来を握るということは、自身を擲つに等しい。えれんは仕事の鬼だった。織葉は自身の幸福を見失っていた。多くの人間に希望を見せる為政者ほど、実態は、人柱に近い。

 それでも愛津は、あの頃のえれんを目指そうとしている。彼女の理念に救われたからか、織葉の意志を継ぎたいからか、愛津にもそれは分からない。


 ただし、愛津も幸せになりたい。

 何もかも手に入れる為政者もこの世にはいて、初めから諦めるのは違う。

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