ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
「神倉さん」
「ん?」
「昔、巨大パフェを一緒に食べに行ったこと、覚えて下さっていますか」
えれんが目を丸くした。
五年前の夏、仕事で夏祭りを手伝った帰り、愛津はえれんと、大きな金魚鉢にふんだんに盛られた甘く冷たいスイーツを分け合った。
怖い物知らずだった少女時分、どんな大人になりたかったか。
賑やかで活動的な人生への憧れを振り返った愛津に、えれんは愛する女との結婚を夢見ていたと話した。愛に焦がれて渇望して、しかし自分を愛したところでその相手に利益はない、とも彼女は続けた。
「神倉さんは、相手にとって得にならなければ、恋をされたくないんですか」
あの時、愛津はえれんに軽口を返した。しかし織葉よりあと数秒先に出逢っていれば、彼女に惹かれていただろう。そう感じていたのも事実だ。
この四年間、愛津は織葉がこの母親に希望を見出していたというのに納得した。かつて愛津は、えれんなら一緒にいられるだけでメリットだと口走ったが、その気持ちは変わらない。
「愛津ちゃん」
「はい」
「貴女は夏に議員になって、「清愛の輪」に政権を取り戻す。そんな愛津ちゃんにとって、私は得にならないばかりか、こうして友達でいるだけでもイメージを下げる」
「神倉さんがいてくれたから、今、私はこうしていられます」
「恩返しなら、市民達にしてあげて。彼女達は、二度も私を選んでくれた。愛津ちゃん達を、一時の間だけでも引っ張っていけたのは、そのお陰」
そう言ってどこか遠くを見つめるえれんの目は、孤独な色を浮かべていた。
刑務所での面会で、愛津は、彼女のこうした顔を何度も見てきた。そこには、かつて彼女から漲っていた野心に似た強さがない。