ジェンダー・ギャップ革命
第10章 正義という罪悪
タクシーを降りて、愛津はショッピングモールの裏手に回った。
数人がえれんに気付いて振り向いてきた。
しかしそれだけだったのは、彼女が、既にその他大勢でしかないからだろう。
愛津は、館内案内板を見上げるえれんの袖を掴んだ。
「さっきの話、真剣に聞いてもらえませんか」
「…………」
「私は皇子様タイプじゃないから、神倉さんの理想に当てはまりませんか」
「え、愛津ちゃん、さっきから、嘘でしょ、……そういう話?」
えれんが、ようやっと弾かれるようにして愛津に顔を向けた。動揺を隠せないと言わんばかりに、目や口を開閉している。
黒目がちな垂れ目は彼女の印象の柔らかさを強調していて、肩まであった茶髪は、胸を覆う長さに伸びている。肌は、四年前もう少し濃かった。出所したばかりでこうも身なりが小綺麗なのは、友人の磯部が不正に職権を使って、彼女を世話していたからだ。
可愛い。
かつて愛津は、生まれ変わっても巡り逢えなければ来世などいらないと思うほど、織葉を愛した。今は彼女の母親に、あの頃に優る想いに胸を詰まらせている。
「女性として、好きです。神倉さんを愛しています。私じゃ、満足していただけませんか」
「あ、…──あ……愛、津、ちゃん……」
誰にも何も言わせない。
愛津は、自分の正義は自分で決める。もとより世間が他人を干渉している暇も持てないくらい、愛津は女達の楽園を守る。