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ジェンダー・ギャップ革命

第10章 正義という罪悪


 入院中、織葉はえみると長い時間を共有した。彼女の好意は知っていたが、あの時期、尚いっそう痛感した。

 看守時代、織葉のために不正を働き、罪を被った。それから心を壊した彼女は、織葉に責任も問わず見返りも求めず、一度は命を絶とうとした。あんなにも利他的な愛を知らなかった。いつしか、彼女の側で支えたいと願うようになった。それは、かつて愛津を自身の手で守りたいと望んだ時の熱に似ていた。それより軽やかで自由なものが、えみるとの未来に仄見えた。


「山西さん、お掃除お疲れ様です」

「ああ、織葉さん。いえいえ、奥様がお帰りになりますの、楽しみですねぇ」

「そのことなんですけど、しばらく愛津ちゃんの部屋にお世話になるって連絡来ました」

「まぁ!」


 一抹の申し訳なさを覚えながら、織葉は文面通りを彼女に伝えた。
 他の家政婦らもえれんの寝室のシーツやカーテンを取り替えたり、お菓子を焼いたり、あるじを迎える準備に動き回っている。彼女らの落胆が目に浮かべばこそ、少しくらい顔を出せないものかと母親を恨む。

 山西が伝達に向かったのと入れ違いになるようにして、えみるも客室を出てきていた。

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