テキストサイズ

ジェンダー・ギャップ革命

第2章 唾を吐く貧民






 憧れを手に余していた事情を打ち明けるか打ち明けまいか、愛津は迷った。

 短い髪は、維持が難しい。こまめにヘアサロンへ行かなければ、みっともなくなる。
 その点、伸びてもそう印象は変わらず、結んでおけば傷みも目立ちにくいのが、当時の愛津の状態だった。同じロングヘアでも、光に当たるとほんのり青く、意図して癖をつけた織葉のつややかな髪とは違う。


「家に仕送りもあって、一人暮らしだし、ずっと収入も安定しませんでしたし……」

「今も?不自由あるなら、私からお義母様にかけあって──…」

「いえ、大丈夫です!今は楽です、お陰様で間に合っています!」

「じゃあイメチェンしようよ。服だってもっと色々着てるの見たい」


 言葉は選んだつもりでも、案の定、織葉に気を遣わせた。あの会話の流れのあとでは仕方なかった。

 二十代に入った頃から愛津は一シーズンに二、三着の洋服を着回すのが当たり前になった。ショッピングモールのワゴンセールに出ている衣類であっても、新調は慎重に検討して、何度、断念したことか。ことに五年前の不況以降、下着も少しくらいほつれたところで買い替えたりしなかったから、今更、身なりにこだわろうとも考えなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ