ジェンダー・ギャップ革命
第2章 唾を吐く貧民
それから数日のち、業務を終えて帰り支度を始めた愛津に、織葉が声をかけてきた。
…──出かけない?
彼女に付いて歩いていくと、着いたのはヘアサロンだった。
紹介したい人がいる、とだけ聞かされていた。
その時まだ、彼女に美容師の友人がいるのだろう、と予想を立てていただけだ。
見当外れではなかった。
インテリアやソファの座り心地にまでこだわりの見られる待合室で、数種類から選ばされたハーブティーを他の客達に混じって飲んでいると、女が出てきた。歳のほどは織葉と同じ、三十代前半といったところか。その雰囲気は、気品と格好良さを兼ね備えた彼女とはまた違う。派手な巻き毛に自由な化粧、鍛錬された肉体が、美容師の女の美意識を象徴していた。
「初めまして、双葉さん。お姉さんのこと覚えてる?」
「えっ」
快活な笑顔を愛津の目線に合わせてきた織葉の友人に、無論、心当たりはない。
愛津の内心を見通した風な口振りで、冗談だよ、と彼女が笑った。
「織葉の演説をたまに遠くから見ているだけだし、気付かなくて当然。ビラ配ってる子、誰?って、ずっと織葉に訊いていたのに、役員の個人情報は教えられないなんて、もったいぶられててさ」
「はぁ」
「それが急に教えてくれたんだもん。話したかったよ、双葉さん。こんなに原石みたいな子、久し振り!不躾で悪いけど、お願い。知り合えた記念に、ヘアモデル、頼めない?」
「私がですか?!」
聞けば、織葉は愛津が好んで髪を伸ばしているととっていた。ところが先日、解釈のズレが明らかになった。そこで彼女は、愛津を気にしていた友人の一人を思い出して、顔合わせさせようと思い立ったらしかった。