ジェンダー・ギャップ革命
第2章 唾を吐く貧民
「急にごめんね、愛津ちゃん。やりたいことはやらないと、人生、あっと言う間だもん。ヘアモデルは断ってくれて構わないけど、たまにはお洒落手伝ってもらって、気晴らしして欲しいなって」
「えっと……」
「織葉は化粧得意よね。やってあげたら」
「素人がやったらダメでしょ」
「そういうとこ真面目ー。議員が親だと、大変だね」
織葉と女は、学生時分からの繋がりと聞いても頷ける親しさだ。ところがヘアモデルを引き受けた愛津は、彼女らの出逢いが驚くほど新しかったという事実を知らされる。
香りの好いシャンプーをして、女の指をなめらかに滑る自分の髪を自覚するほど良質なトリートメントに潤いを与えられながら、愛津は彼女の思い出話に耳を傾けていた。
「織葉を知ったのは、双葉さんを見かけるようになった一年前。政治団体のリーダーにしておくのがもったいないような声が聴こえてきて、冷やかしで顔見に行ったら、すごい美人で驚いた。インスピレーションは湧かなくて、モデルは頼まなかったけど」
「それからお友達に?」
「お茶に誘ったら、オーケーしてくれて」
耳を疑うほどの幸運だ、と愛津は思った。
織葉は聴衆の女達には気さくだが、個人的な誘いは断っている。例外だったこの美容師は、きっと愛津やえみる以上に縁があった。