無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　予算で選んでいたヘアサロンとは違う、スタイリッシュな店内を映した鏡の中で、愛津は劇的に姿を変えた。髪の毛一本一本に、まるで魔法をかける手つきで鋏を動かす女の話は、どれも愛津を夢中にさせた。ヘアカラーも進化しているらしく、近年は髪を傷めにくい薬剤が出ているという。愛津はそれらを勧められたが、維持出来ないという理由で首を横に振った。すると彼女は、金は客からもらうもので、モデルからもらうものではないと言ったが、やはり愛津は辞退した。トリートメントも使ったことがなかった。手入れをしている余裕はなく、結んでいるしかなかった髪。それが見た目のために短くなっていく工程を見ているだけで、胸が満ちて、これ以上みちがえては何か良くないことが起きる気がした。


「はい、完成」


　仕上げのつや出しスプレーの音が止んで、愛津は目を開けた。

　鏡の中で、愛津と同じ顔をした別人が、自身の愛らしさに目を瞠っていた。



「どっかのアイドルにいそう。黒髪、触らなくて正解だった。軽くなった？お人形みたい」


　ただ髪を短くしただけ。肩より短い内巻きのボブは憧れだったが、それだけでこうも気分が変わるとは思わなかった。

　実用性に欠けた洋服を次々と新調したがるえみる達の気持ちが、初めて理解出来そうな気がした。


　時間潰しから戻ってきた織葉と落ち合って、愛津は美容院を出た。