ジェンダー・ギャップ革命
第2章 唾を吐く貧民
嫌な記憶は、愛津にまとわりつかなかった。
似合うものを自覚している、それに上質な洋服を着込んだ織葉の付き添いというのもあるだろうが、店員達は愛津にも愛想良く接した。愛津も値札が視界に触れても、以前のような思いに胸がきりきり痛まなかった。
可愛いものを可愛いと思える。
浮かれた洋服や服飾雑貨を吟味して、愛津に感想を求めてくる織葉の姿に、声に、別の苦しみに胸が叫びたがっていた。その苦しみは痛みではない。
それから愛津を自宅近くまで送り届けてくれた織葉が、買ったばかりの紙袋を差し出してきた。
「着てきて」
「え……」
「出勤用。同情じゃないから。可愛い子をもっと可愛く着飾らせて側にいてもらうの、夢だっただけ」
「悪いです、……」
「私の目の保養になれって言っても、ダメ?」
愛津は、織葉の手からずっしりと下がった紙袋に手を伸ばした。
把握していた限りでも、十着はあった。どれも彼女の好みらしからぬ洋服で、愛津が可愛いだのお洒落だの相槌を打ったものばかりだった。受け取れない理由はなかった。
憧れの髪型に、憧れの洋服。
愛津はそれらの煌びやかなものに対して、自分でも驚くほど感動していなかった。
嬉しくないわけではなかったが、織葉にいだいた感情が、他の全てを霞ませていた。