ジェンダー・ギャップ革命
第2章 唾を吐く貧民
金があれば、こうも荒まなかっただろうか。
少なくとも自由はあった。着るものにしても食べるものしても、そして住むところでも、金があれば選択の幅は広がる。
えれんと織葉は、ぎくしゃくしたこともなさそうだ。元警察官の月村も、酔えば配偶者の惚気話を始めるほど、円満な家庭に恵まれている。
母親を見送って、今の気分では足腰が悲鳴を上げそうな階段を見ると、その先に、どんな澱んだ空気も一掃する容姿の女がいた。いつもなら目が合えば舞い上がるのに、つと、今の話が彼女の耳に入ったのではないかという予感が愛津を襲った。
「う"っ……」
「愛津ちゃん?!」
織葉が慌てて駆け降りてきた。
聞けば、彼女はさっき訪ねてきた九条の忘れ物を届けるために出てきて、そこで愛津達が揉めているのを見たらしい。
「降りにくくて……ごめん、色々聞こえた」
「っ……」
織葉の指が、愛津の目尻や頬に触れる。みっともなく溢れる涙を拭う優しい指に安堵する一方で、絶望の淵が、愛津を嗤って手招きしている。