ジェンダー・ギャップ革命
第2章 唾を吐く貧民
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忘れ物を届けに出ただけだったのが、日没後、ようやく織葉は本部に戻った。
厳重に扱うべき新薬より、えれんも、早退させた愛津を気にしていた。織葉も同じだ。久城の忘れ物がなければ昼間、強引に彼女を自宅に送ったあと、もっと付き添っていただろう。
「お金があれば自由になれる、なんて。愛津ちゃんは純粋だわ」
「認めたくなさそうだったけどね。人生がお金で決まるなんて、負けた気がするって」
「好ましいわ、純粋で。だって結局、お金だもの。私が不自由だったのは、貧しかったからだもの」
遠い日を見つめるえれんの顔は、どきりとするほど儚い。愛津ら役員達や、彼女の大勢の支持者達は、党首のこうした一面を知る由もない。
英真やしづやは退勤したあとだ。午後に抜けた二人の仕事も、少し手をつけて帰ってくれていた。
時計の秒針、時折、外を通過する車のタイヤの音だけ聞こえる中、織葉は業務の残ったデスクに戻った。
どこから手をつけるか検討していると、織葉の肩に、小麦色の腕が絡みついてきた。扇情的な弾力が、うなじに重みを感じさせる。