ジェンダー・ギャップ革命
第4章 享楽と堕落の恋人達
失言で干された著名人は、掃いて捨てるほどいる。
英真の父、往国茂樹(ゆきぐにしげき)も、「うっかり」が世間の非難を集めた。
ただし時代に遅れた中年男が古びた粗相を起こしたところで、彼が社会に葬られるには、インパクトに欠けていた。ある特定の獲物に向けて、人は忍耐強く攻撃出来ない。
そうした人間の飽き性に、往国茂樹は命拾いした。
当時は彼に撤回を求める動きもあったし、その年の選挙においてえれんに勝機は転がり込んだが、彼の謝罪は見送られて、議員として首も繋がった。
問題の彼の発言は、早い話が、LGBTQへの誹謗中傷だった。
彼の頭は、娘を含んでいなかった。
悪意はなかった。しかし悪意から英真達を罵倒していた方が、まだ聞き流せた。
「否定か同情、または誤解。理解じゃないよ、誤解だよ。異性しか愛せない人間は、私達に欠陥があるか、差別に耐える可哀想な対象として見るか、一方的に解釈して踏み込んでくる。理解したつもりでね」
同じ屋根の下にいれば、父とは不毛な衝突を繰り返す気しかしなかった。それで屋敷を飛び出してきた英真に、当時、既に恋人と呼び合っていたしづやはこうした所感を並べた。