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ジェンダー・ギャップ革命

第4章 享楽と堕落の恋人達



 この若松の第一印象は、英真から見て最悪だった。

 若松には男の配偶者がいて、二度の出産を経験している。だのにああいった団体を支援して、派手なデモを起こしたり、啓蒙ポスターをあちこちに貼り出したりしている。
 「こんな人がいるのを知っていますか」「あなたの身近にもいるかも知れません」……差別撲滅のキャッチフレーズは、英真からすれば、あれこそ差別だ。

 ただし、彼女は真剣だった。その原動力は、彼女の二人目の娘である。その娘にも同性の恋人がいて、将来、婚姻届けや相続において不当な目に遭わないよう、この運動に熱意を注いでいたのだ。



「ところで、織葉は浮いた話を聞かないわ。うちのメンバーが興味津々だったわよ。大恋愛してそうだって」


 若松もさばけた性格だ。赤みがかった長い髪を肩の後ろに払い直して、季節不問で明るい色のスーツを好む女は、愛娘に話を振った。


「恋愛している余裕は、ないな」

「本当?」

「気になっている人はいたけど、「清愛の輪」を手伝ってからは、本当になくて。恋より、大事な人を支えていたい」

「意味深ー。良いわ、こんなところで公表させても可哀想だし。今度詳しく聞かせてもらう」



 若松が腰を上げたのは、それから十分ほどあとだ。今日は別の駅前でも、活動を予定しているらしい。

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