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ジェンダー・ギャップ革命

第4章 享楽と堕落の恋人達



 えれんにメールを転送して、次の投書に目を通しながら、愛津は彼女の理屈に首肯していた。


 婚姻前の審査制度は、理に適っている。

 愛津の父の両親は、結婚前、当時は大企業の事務職だった母を退職させた。挙げ句、父が入院してからというもの、母はパート収入で彼を養うのに辛酸を舐めているし、彼本人は、配偶者に申し訳なさを覚えるどころか、今も大黒柱気取りだ。

 愛津の中学時代からの友人も同じだ。

 飯原ひろか、旧姓、皆岸ひろか。

 三年前、彼女は明朗な同い年の男と結婚した。

 円満な夫婦は昨年、初めての子供を授かった。愛津も一度、親友の面影を継いだ小さな命に会いに行った。
 学生時分は地味なグループに属していた、しかしやはり愛津と同じで学力では一目置かれていた彼女は、派手な同級生達にも慕われていた。就職しても結婚しても、ドラッグストアのコスメで肌を整えて、伸ばした黒髪を一つに束ねて、動きやすい洋服を生地がすり切れるまで着回していた彼女は、愛津が新居に行った時も、きびきび家事をこなしていた。
 山積みの洗濯物に、流し台に投げ込まれたと思しき調理器具や食器──…彼女は親友の訪問中まで、床に雑巾を滑らせていた。

 ひろかの笑顔に垣間見える諦念に、愛津は気付くべきだった。
 気付いていれば、母と違って結婚相手を見誤らなかった彼女を誉めるという失態は、犯さなかった。

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