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ジェンダー・ギャップ革命

第4章 享楽と堕落の恋人達



「友達はモラハラ男なんか選びませんし、豹変したって、イエスとノーを言える子です。それに私、男が経営している店に飲みに行きましたけど、父よりかはまともでしたよ。お兄ちゃんくらい良い人でした」

「英真ちゃん、お兄さんいたの?!」

「はい。全く父に似てませんから、あまり話に出ませんけど。お兄ちゃんとは連絡とり合っています」


 頭上の論争に一切の関与もしなかった織葉が、英真に驚愕の目を向けていた。愛津も今、おそらく彼女と同じくらい驚いている。

 当の英真は、兄の話をすぐ切り上げた。


「斎藤こうき」


 英真の澄み渡るような声がその名前を放った時、織葉がまた顔を上げた。彼女の濡れた黒曜石を想わせる目が、揺れた。


「三十四歳、居酒屋「宵々」経営者。再審査をお願いします」

「神倉さん、私からもお願いします」


 美しい波を描いた髪を揺らして、腰を九十度折った英真に続いて、しづやもえれんに頭を下げた。


 愛津は、えれんの斜め前のデスクで業務を再開した織葉から、目が離せなくなった。仕事の姿勢を見せているだけで、彼女の広げている書類は逆さで、英真が助太刀を求めても、空返事で返している。

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