ジェンダー・ギャップ革命
第4章 享楽と堕落の恋人達
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斎藤こうきという名前を、いつ振りかに耳にした。
織葉が彼の店に通っていたのは十年前、六年くらい交流があった。
本腰を入れて「清愛の輪」を手伝うまで、織葉は小さな会社にいた。
営業職は、順調だった。振り返ると、大学を出るまでアルバイトの経験もなかった女に社会が甘かったのは、えれんが織葉を彼女の政治団体の代表として前に出そうと思いついたのと、根拠は似通っていた。
…──お姉さん、綺麗ですね。
美人に勧められた商品なら、試しに契約させてもらいます。
営業先の客達は、セールス文句の内容より、織葉の声を聞いていた。
容姿が良ければ生きやすいのね。
神倉さんと話せるなら、必要なくても、お金出しちゃうかも知れません。
同じ部署の社員達は、まだ親しみある色眼鏡を織葉に向けていた。日常に悪意をしたたらせれば、ろくでもない毒になる。そうした分別は持ち合わせていた彼女らと違って、他の部署の人間は、すれ違いざま、健全な職場に不適切な言葉を織葉に耳打ちすることもあった。
えれんに言わせれば、男が女を誉めるのは、動物の咆哮と同じらしい。
女は相手との距離を考慮するが、男は感情が先走れば、相手の都合に想像力を働かせない。肉体を誉めることもあれば、食事に平気で誘いかける。
当時、重光の秘書を務めていた彼女も、露骨なハラスメントに耐えていた。