ジェンダー・ギャップ革命
第4章 享楽と堕落の恋人達
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出前を頼むという作戦は、ついに英真に親友を危機から救わせた。
玲亜が結婚を望んだ男は、織葉のかつての友人だった。何かの事情で交流を絶っていたようだが、彼女の口添えが功を奏して、英真の清廉潔白な雇用主は、贔屓で重い腰を上げてくれた。
退勤後、洒落たバーで英真は玲亜と落ち合って、祝杯を挙げた。相変わらず真顔で男への愛を語る彼女に共感は持てなかったにしても、英真は彼女の婚約指輪に拍手を送って、彼女の感謝や夢を聞いた。持つべきものは友人だと喜ぶ彼女に目を細めながら、英真の脳裏を掠めたのは、あの日の織葉だ。結局、英真が何かしたわけではなかった。旧友のために動いたのは、それまで無関心だった「清愛の輪」の看板塔だ。
解散して帰路につくと、やや欠けた月が晦冥の空に浮かんでいた。
自然光が注ぐ中、温かな家族の待つマンションが見えてきたところで、不意に英真の身の毛がよだった。
「調子こいてんじゃねぇぞゴラ!!」
「英真様は往国家のたった一人のお嬢様なんですよ。後継も産めない恋愛ごっこをなさっているお暇はないんです、我々に返してもらえませんか」
「性懲りもなく、よく来れたものですね。そういう態度、英真じゃなくても、大概の女性は引きますよ」
「ざっけんなお前……っ」
「近所迷惑なので、本当に──…ぁぐっ」
時の静止したような深夜近くの住宅街に、いやに生々しい鈍音が立った。