夢のうた~花のように風のように生きて~
第5章 花塵(かじん)
―遠く愛しき恋の歌
たゆまずめぐる紡車
もつれてめぐる夢の唄―
少しはにかんだような初々しい笑顔で耳許でそう囁いたのは、お千香が十歳の頃のことだった。
―おみつ、おみつ。
また呼ばれたような気がして、おみつは淡く微笑んだ。
「お嬢さま、お嬢さまのことは、このみつ、終生忘れません。お嬢さまとご一緒に過ごしたこの十七年間は、みつにとっても得難い至福のときにございましたよ」
心の中のお千香にそっと呼びかける。
おみつは明日、美濃屋を去ることになっている。お千香の四十九日の法要も一昨日、滞りなく済ませた今、おみつがここに残る理由は何もない。
おみつは、もう一度、眼に灼きつけておくようにゆっくりとお千香の居間を見回した。
遠く愛しき恋の歌
たゆまずめぐる紡車
もつれてめぐる夢の歌
どこからか、お千香の澄んだ歌声が響いてくるようで、おみつは、いつまでもその場から離れられないでいた。
(了)
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