
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第9章 驟雨
多分、私を探しているあの人は、この江戸のどこかにいる。あの人が私にとって、どのような存在なのかは判らないけれど、私はあの人の待つ場所へと帰りたい。あの人のいるところこそが、きっと自分の本来あるべき居場所なのだという確信めいたものがあった。
「誠吉さんには心から感謝しています」
でも、だからといって、夫婦になることはできない。泉水は自分を待ち続けている人の許に帰りたいのだから。
「男、か?」
誠吉に言われ、泉水は息を呑んだ。
「誠吉さんの言ってる言葉の意味が判りません」
首を振ると、誠吉が拳を握りしめた。
「お前には男がいたんだろう?」
烈しい声だった。だが、何故、誠吉がこれほど憤りを滲ませた声をしているのか判らない。
―男、男って、何のことだろう?
誠吉の言葉の意味を計りかねていると、突如として手首を掴まれ、引き寄せられた。
「おさよ、好きなんだ。惚れてるんだよ。何も言わねえで、俺のものになってくれよ」
熱い吐息が耳朶をかすめた。
強い力で抱きしめられ、息ができない。
「誠吉さん、痛い―」
訴えてみても、誠吉は熱に浮かされたように泉水を抱きしめるばかりだ。首筋に熱い唇が触れ、泉水はか細い身体をのけぞらせた。
誠吉の手が襟元から差し入れられる。大きな手が波打つ豊かな乳房をすっぽりと包み込んだ。
「やわらかい胸だな」
誠吉が恍惚とした表情で呟いた。
ふいに桜色の先端を強く揉みしだかれ、泉水は痛みに悲鳴を上げた。
「いやっ、止めて、誠吉さん、止めて―」
泉水は首を烈しく振りながら、泣いて訴えた。
「信じていたのに、お兄さんのように思っていたのに」
泉水が泣きじゃくりながら言うと、誠吉が怒鳴った。
「俺はお前の兄さんなんかじゃねえ」
乾いた声が震えている。
泉水は涙の滲んだ眼で誠吉を見た。怒りと屈辱で赤黒く染まった顔は、普段の穏やかな誠吉とは違う人のようだ。
怖かった、誠吉が無性に怖かった。
怯えた眼で見上げる泉水に、誠吉が心もち声をやわらげた。
「誠吉さんには心から感謝しています」
でも、だからといって、夫婦になることはできない。泉水は自分を待ち続けている人の許に帰りたいのだから。
「男、か?」
誠吉に言われ、泉水は息を呑んだ。
「誠吉さんの言ってる言葉の意味が判りません」
首を振ると、誠吉が拳を握りしめた。
「お前には男がいたんだろう?」
烈しい声だった。だが、何故、誠吉がこれほど憤りを滲ませた声をしているのか判らない。
―男、男って、何のことだろう?
誠吉の言葉の意味を計りかねていると、突如として手首を掴まれ、引き寄せられた。
「おさよ、好きなんだ。惚れてるんだよ。何も言わねえで、俺のものになってくれよ」
熱い吐息が耳朶をかすめた。
強い力で抱きしめられ、息ができない。
「誠吉さん、痛い―」
訴えてみても、誠吉は熱に浮かされたように泉水を抱きしめるばかりだ。首筋に熱い唇が触れ、泉水はか細い身体をのけぞらせた。
誠吉の手が襟元から差し入れられる。大きな手が波打つ豊かな乳房をすっぽりと包み込んだ。
「やわらかい胸だな」
誠吉が恍惚とした表情で呟いた。
ふいに桜色の先端を強く揉みしだかれ、泉水は痛みに悲鳴を上げた。
「いやっ、止めて、誠吉さん、止めて―」
泉水は首を烈しく振りながら、泣いて訴えた。
「信じていたのに、お兄さんのように思っていたのに」
泉水が泣きじゃくりながら言うと、誠吉が怒鳴った。
「俺はお前の兄さんなんかじゃねえ」
乾いた声が震えている。
泉水は涙の滲んだ眼で誠吉を見た。怒りと屈辱で赤黒く染まった顔は、普段の穏やかな誠吉とは違う人のようだ。
怖かった、誠吉が無性に怖かった。
怯えた眼で見上げる泉水に、誠吉が心もち声をやわらげた。
