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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第12章 幻花(げんか)

頷き、逡巡して、泉水は結局、その問いを口にした。
「あなたは祐次郎さまの弟君でいらっしゃるのですね?」
 徳円の切れ長の双眸が光った。
「もし私が先に生まれていれば、兄が手に入れたものは、すべて私のものになるはずだった。たった少し後に生まれたというだけで、兄と私の運命(さだめ)が入れ替わった―、だが、私は、そんなことは認めない。兄がぬくぬくと両親に守られ愛され育っている間、私はずっと孤独でした。育ててくれた産婆も私が十五の年に亡くなった。息を引き取る間際、私がずっと実の祖母だと信じて慕ってきたその人は、私にすべてを話してくれたのです。仕方がなかったのだ、あのときは、ああするしかなかった。だから、父や母を恨んではならない。恨むのなら、私が生きながら葬られるような一生を辿らざるを得なかった、その運命そのものを憎めと言われました。優しい女(ひと)でした。女手一つで幼い私を育て上げてくれた。その人がいなければ、私はとうに死んでいたはずです」
 徳円は遠い眼で語り続ける。

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