
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第12章 幻花(げんか)
その直後、空を裂くような雷鳴が響いた。雷に怯えて、咄嗟に身を固くする泉水を、徳円はやわらかく抱きしめた。
「もし、今、私がここであなたを欲しいと言えば、あなたはどうしますか? 大人しく私に抱かれますか?」
「―」
泉水の顔が瞬時に強ばった。泉水はきつく唇を噛みしめる。
そんな泉水を徳円はかかえ上げ、そっと板敷きの床に横たえた。泉水の華奢な身体の上に覆い被さり、徳円が魅惑的な声で囁く。
「私は兄に似ていますか?」
その手が泉水の袴の紐にかかった。
泉水は固く眼を閉じた。不思議なことに、抵抗しようとは思わなかった。徳円を男として見ているわけでもなく、ましてや、惚れているわけでもないのに、抗う気にはなれなかった。
と、徳円の身体が離れた。
泉水が恐る恐る眼を開くと、背中を向けて立つ徳円の姿がある。
「哀れむのはお止しなさい」
徳円がポツリと呟いた。
「私が祐次郎を恨んだように、あなたは私を恨めば良いのです。祐次郎そっくりの姿をあなたの前にさらし、あなたを惑乱させ、あまつさえ乱暴しようとした私を憎みなさい。そして、憎む代わりに、けして哀れんだりはしないで下さい。私はもうこれまでに十分、口惜しい想いを味わってきた。あなたにまで今、哀れまれるのは屈辱だ」
徳円がつと振り向く。
考えていたことをはっきりと口にされ、泉水は視線を逸らした。
「あなたは好きでもない男にあっさりと身を任せるような女性ではないはずです。私の言うなりになろうとしたのも、私の身の上を知って同情したからでしょう、違いますか?」
うつむいたままの泉水に、問いかける口調で念を押す。
徳円が手を伸ばす。思わずビクリとして身を退こうとした泉水の白い頬に、そのしなやかで長い指がそっと触れる。その指は一瞬、泉水の頬をかすめ、流れ落ちる涙の雫をぬぐい取った。
「泣くほど嫌な男に身を任せることなど、お止めなさい」
徳円は静かな声音で言った。
「もし、今、私がここであなたを欲しいと言えば、あなたはどうしますか? 大人しく私に抱かれますか?」
「―」
泉水の顔が瞬時に強ばった。泉水はきつく唇を噛みしめる。
そんな泉水を徳円はかかえ上げ、そっと板敷きの床に横たえた。泉水の華奢な身体の上に覆い被さり、徳円が魅惑的な声で囁く。
「私は兄に似ていますか?」
その手が泉水の袴の紐にかかった。
泉水は固く眼を閉じた。不思議なことに、抵抗しようとは思わなかった。徳円を男として見ているわけでもなく、ましてや、惚れているわけでもないのに、抗う気にはなれなかった。
と、徳円の身体が離れた。
泉水が恐る恐る眼を開くと、背中を向けて立つ徳円の姿がある。
「哀れむのはお止しなさい」
徳円がポツリと呟いた。
「私が祐次郎を恨んだように、あなたは私を恨めば良いのです。祐次郎そっくりの姿をあなたの前にさらし、あなたを惑乱させ、あまつさえ乱暴しようとした私を憎みなさい。そして、憎む代わりに、けして哀れんだりはしないで下さい。私はもうこれまでに十分、口惜しい想いを味わってきた。あなたにまで今、哀れまれるのは屈辱だ」
徳円がつと振り向く。
考えていたことをはっきりと口にされ、泉水は視線を逸らした。
「あなたは好きでもない男にあっさりと身を任せるような女性ではないはずです。私の言うなりになろうとしたのも、私の身の上を知って同情したからでしょう、違いますか?」
うつむいたままの泉水に、問いかける口調で念を押す。
徳円が手を伸ばす。思わずビクリとして身を退こうとした泉水の白い頬に、そのしなやかで長い指がそっと触れる。その指は一瞬、泉水の頬をかすめ、流れ落ちる涙の雫をぬぐい取った。
「泣くほど嫌な男に身を任せることなど、お止めなさい」
徳円は静かな声音で言った。
