胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第13章 夢
単に女らしくないと言われているだけのような気もするのだけれど。
確かに泉水は自分を女だと格別に意識したことはない。女らしい恰好、例えば、きらびやかな打掛や小袖は大の苦手だし、いまだに裾を踏んづけて転びそうになることも再々だ。それよりは、袴をはき、髪を一つに束ねた男姿の方がよほど活動的で動きやすいし、好きだ。
そんなところをもって、乳母の時橋は泉水が〝姫らしくない〟と嘆息するのだ。自分を殊更女だと意識したことのない泉水ではあったけれど、大好きな泰雅から改めてそう言われると、やはり女としては哀しいものがある。
「な、一度で良いのだ、その可愛らしい口で俺に愛の科白でも囁いてみぬか。さすれば、時橋には閨での話は一切内緒にしておいてやるぞ?」
そこまで言われて、泉水は覚悟を決めようと思ったのだが、やはり、すんなりと口にはできぬ言葉であった。
幾ら泰雅にだとて、本当はそんなことを臆面もなしに口にできるほどの性分ではない。お転婆で勝ち気な姫ではあっても、根は恥ずかしがり屋なのだ。
しかも、ここは寝室、閨の中で男にそのような科白を囁くような破廉恥、もしくは、はしたない行為だけは心底嫌だった。しかも、自分は側妾ではなく、正室だから―、断じて寝間で泰雅に甘えたり、何かをねだったり頼んだりといったことをしてはならぬと自らを固く戒めていたのに。
「殿、私は殿の妻にござります、正室は側室とは違いまする。そのような、はしたない真似だけはできませぬ、どうか、お許し下さいませ」
泉水が涙目になって訴えると、泰雅が小首を傾げた。
「何だ、泉水はそのようなことを考えておるのか? なるほど、お転婆婆姫などと呼ばれる割には、道理でいつも堅苦しきことばかり申すわけだ」
泰雅は呟き、泉水の腰と背中に腕を回すと、壊れ物を扱うように抱え上げた。いきなり膝の上にのせられ、泉水は狼狽える。身をよじって逃れようとする泉水を、泰雅は背後からそっと抱きしめた。
「なあ、泉水。俺は泉水を心から愛しいと思う。恐らく、泉水も俺と同じ気持ちでいてくれると信じている。だが、俺たちのように互いに想い合うことは、そちの言うように破廉恥な、みっとないことか?」
確かに泉水は自分を女だと格別に意識したことはない。女らしい恰好、例えば、きらびやかな打掛や小袖は大の苦手だし、いまだに裾を踏んづけて転びそうになることも再々だ。それよりは、袴をはき、髪を一つに束ねた男姿の方がよほど活動的で動きやすいし、好きだ。
そんなところをもって、乳母の時橋は泉水が〝姫らしくない〟と嘆息するのだ。自分を殊更女だと意識したことのない泉水ではあったけれど、大好きな泰雅から改めてそう言われると、やはり女としては哀しいものがある。
「な、一度で良いのだ、その可愛らしい口で俺に愛の科白でも囁いてみぬか。さすれば、時橋には閨での話は一切内緒にしておいてやるぞ?」
そこまで言われて、泉水は覚悟を決めようと思ったのだが、やはり、すんなりと口にはできぬ言葉であった。
幾ら泰雅にだとて、本当はそんなことを臆面もなしに口にできるほどの性分ではない。お転婆で勝ち気な姫ではあっても、根は恥ずかしがり屋なのだ。
しかも、ここは寝室、閨の中で男にそのような科白を囁くような破廉恥、もしくは、はしたない行為だけは心底嫌だった。しかも、自分は側妾ではなく、正室だから―、断じて寝間で泰雅に甘えたり、何かをねだったり頼んだりといったことをしてはならぬと自らを固く戒めていたのに。
「殿、私は殿の妻にござります、正室は側室とは違いまする。そのような、はしたない真似だけはできませぬ、どうか、お許し下さいませ」
泉水が涙目になって訴えると、泰雅が小首を傾げた。
「何だ、泉水はそのようなことを考えておるのか? なるほど、お転婆婆姫などと呼ばれる割には、道理でいつも堅苦しきことばかり申すわけだ」
泰雅は呟き、泉水の腰と背中に腕を回すと、壊れ物を扱うように抱え上げた。いきなり膝の上にのせられ、泉水は狼狽える。身をよじって逃れようとする泉水を、泰雅は背後からそっと抱きしめた。
「なあ、泉水。俺は泉水を心から愛しいと思う。恐らく、泉水も俺と同じ気持ちでいてくれると信じている。だが、俺たちのように互いに想い合うことは、そちの言うように破廉恥な、みっとないことか?」