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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第13章 夢

 嫌だというわけではないのだけれど、気が引けてしまうというのか、しないで済む務めならばしないで済ませたいと思うのだ。それは恐らく、泰雅の言うように、泉水が男女の営みを本能的に不潔なものだと考えているところに根本的な原因があるのかもしれない。
 それはまた、正室や側室といった立場の相違とは別の次元の話ではあるが、正室が閨で甘えたりするのはみっともなく、はしたない―、そういった考えは結局はその延長線上にあるものだろう。
「何も泣くことはない。そなたのそういった初なところもまた、俺は気に入っているのだ。だが、良い加減に、少しは慣れて欲しい、身も心も俺になびいて欲しいと思うておるのは確かだな」
 泉水は唇を噛んだ。泰雅に抱かれている時、思わず身を固くしていること、貫かれても懸命に声を上げまい、乱れまいと自分を極力抑えていること。すべては、男に抱かれて女郎のように思うがままに乱れることは、はしたないと思っていたからだ。女の扱いには慣れ、女体を知り尽くした泰雅ほどの男に、勘づかれぬはずがなかったのだ。迂闊だった。
「私は、どうして、こんな風なのかしら。殿をこんなにお慕いしているのに、大切にお思い申し上げているのに」
 泉水の大きな黒い瞳に涙が溢れた。
「今は、その言葉だけで十分だ。済まぬ、俺もこのようなつまらぬ話までするつもりはなかったのだ。そなたは、男のなりで外を駆け回っていたというだけあって、そういったことには疎く、まだまだ稚い。その分、先が愉しみなのだ。いずれ、いっそう美しく艶やかな花を開かせようと、俺はその日を愉しみに待っておる。そうなれば、自ずと身も心も俺になびくようにもなるさ」
 泰雅はそう言うと、また少し意地悪な顔になった。
「もっとも、心はねんねでも、身体の方は十分すぎるほど大人の女のものだがな」
「―、殿の意地悪!」
 泉水は真っ赤になって、泰雅を睨む。
 泰雅は愉快そうに声を上げて笑った。
「そうやって、すぐにムキになるところも紅くなるところもまた可愛い。ゆえに、俺は余計にそちを困らせてやりたくなるというわけだ。いや、これは少々、人が悪すぎるな」
 自分で言いながら、泰雅は少しも反省した様子もない。

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