胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第13章 夢
「そちは、どうも人が好すぎるからな。大体、初めて逢うた日も、そなたは見ず知らずの町人の親子をならず者どもから助けようと自ら危険に飛び込んでいったではないか」
思えば、その出来事が二人を結びつけた。泰雅は、身の危険を顧みることもなく果敢に大の男数人に立ち向かった泉水にひとめ惚れ、泉水は風のように現れ、自分や町人の母子を庇った泰雅の凛々しさに心惹かれたのだ。
お転婆で、少々勝ち気、そして、正義感に燃えれば何をしでかすか判らない、上に何とかがつくほどのお人好し、それが泉水という少女である。そして、泰雅は、そんな泉水を心底大切に思い、惚れている。
「その夢のこと、あまり深くは考えてはならぬ。所詮は夢、あくまで眠りの中で見るものだ」
「はい」
泉水は殊勝に頷いたが、泰雅はどうもその見せかけだけの態度をあっさりと信用はしておらぬようだ。
確かに、泰雅は鋭かった。ただの夢として片付けるには、あの夜毎見る夢はあまりに印象が鮮烈すぎた。底なしの闇の中で泣きじゃくる女の子、あの子は一体どこの子なのであうか。
いつしか泉水は、そんなことを真剣に考えるようになっている。よくよく考えれば、夢の中に現れるだけのあの子が現実にこの世に存在するはずもないのに―。
だが、あの子は、どうして、あんなに哀しいそうに泣いているのだろうか。まるで、魂を引き裂かれそうな、切なげな泣き声が泉水の耳奥から離れない。
物想いに沈む泉水を、泰雅が気遣わしげに眺めていた。そのことに、泉水は全く気付いていない。
夜は静かに更けていった。
思えば、その出来事が二人を結びつけた。泰雅は、身の危険を顧みることもなく果敢に大の男数人に立ち向かった泉水にひとめ惚れ、泉水は風のように現れ、自分や町人の母子を庇った泰雅の凛々しさに心惹かれたのだ。
お転婆で、少々勝ち気、そして、正義感に燃えれば何をしでかすか判らない、上に何とかがつくほどのお人好し、それが泉水という少女である。そして、泰雅は、そんな泉水を心底大切に思い、惚れている。
「その夢のこと、あまり深くは考えてはならぬ。所詮は夢、あくまで眠りの中で見るものだ」
「はい」
泉水は殊勝に頷いたが、泰雅はどうもその見せかけだけの態度をあっさりと信用はしておらぬようだ。
確かに、泰雅は鋭かった。ただの夢として片付けるには、あの夜毎見る夢はあまりに印象が鮮烈すぎた。底なしの闇の中で泣きじゃくる女の子、あの子は一体どこの子なのであうか。
いつしか泉水は、そんなことを真剣に考えるようになっている。よくよく考えれば、夢の中に現れるだけのあの子が現実にこの世に存在するはずもないのに―。
だが、あの子は、どうして、あんなに哀しいそうに泣いているのだろうか。まるで、魂を引き裂かれそうな、切なげな泣き声が泉水の耳奥から離れない。
物想いに沈む泉水を、泰雅が気遣わしげに眺めていた。そのことに、泉水は全く気付いていない。
夜は静かに更けていった。