
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第14章 夢を売る男
そこには、やはり、世間から後ろ指をさされるような、あまり子どもの耳には入れたくない経緯があるのではないかとも思える。男女の機微やそういったことにはとんと疎い泉水でさえ、おはるにの突然の出奔には訳ありのような気がしてならない。もし、万が一、そこに男の存在があるのだとしたら―。真実を知ることが、おつやのためになるとは一概には言えまい。ひたむきに母を信じようとする、おつやの無垢な心を傷つけることにならねば良いが、と、泉水は一抹の危惧を抱かずにはおられなかった。
だが、当のおつや自身が母との再会を強く望み、真実を知りたいと願っている。そうである以上、やはり、おつやの願いを聞き届けてやることは、大切なのかもしれない。このまま真実を知らぬままであれば、おつやは傷つくことはないだろうが、心の奥底にいつまでもわだかまりを抱えて生きてゆかねばならないだろう。
大好きな母が自分を捨てたのか、それとも、何らかの理由があって、家を出ていったのか。どっちつかずの中途半端な心のまま、常に葛藤を抱えていかなければならない。それはそれで、また酷いことであった。
うじうじ一人で悩んでいるよりは、自分の脚で探した方が早い。そう言い切ったおつやを、泉水は強いと思った。泉水自身も五歳で母を喪っている。泉水が物心つく前から、一日の大半を床の中で過ごすような病弱な女(ひと) だった。その腕に抱きしめて貰った記憶もない。泉水にとっては、乳母の時橋が母と呼べる存在であった。ゆえに、正直、母が亡くなったときも、格別に淋しいとも哀しいとも感じなかったのだ。
だが、当のおつや自身が母との再会を強く望み、真実を知りたいと願っている。そうである以上、やはり、おつやの願いを聞き届けてやることは、大切なのかもしれない。このまま真実を知らぬままであれば、おつやは傷つくことはないだろうが、心の奥底にいつまでもわだかまりを抱えて生きてゆかねばならないだろう。
大好きな母が自分を捨てたのか、それとも、何らかの理由があって、家を出ていったのか。どっちつかずの中途半端な心のまま、常に葛藤を抱えていかなければならない。それはそれで、また酷いことであった。
うじうじ一人で悩んでいるよりは、自分の脚で探した方が早い。そう言い切ったおつやを、泉水は強いと思った。泉水自身も五歳で母を喪っている。泉水が物心つく前から、一日の大半を床の中で過ごすような病弱な女(ひと) だった。その腕に抱きしめて貰った記憶もない。泉水にとっては、乳母の時橋が母と呼べる存在であった。ゆえに、正直、母が亡くなったときも、格別に淋しいとも哀しいとも感じなかったのだ。
